2010/11/23

Post #9 The Dirty Jobs


Paris
俺はこう見えて肉体労働者のはしくれだ。こんな道楽じみた事ばかりやってちゃ、飯が喰えなくなっちまうのさ。
男業だ。
人生水が低きに流れるように、なかば成り行きでこうなってしまったが、かれこれ15年は作業服がスーツ代わりだ。
決して割の良い仕事じゃない。労多くして、実りは少ない。仕方ない。それが世の中の仕組みだ、ロックンロールだ。
しかも年々単価は下がっている。デフレはこんなところまで蔓延っているのさ。
話題とも言えないような下らないおしゃべりしかできないキャバ嬢のほうが、俺たちよりもよっぽど儲かるんじゃないのか?いくら俺が彼女達みたいな、乙な商売道具をヘソの下に着けて生まれて来なかったからって、あんまりだぜ!
ただ、一般的なサラリーマンの皆さんのように、毎日同じ電車に乗って、青山で買ったスーツを着て、毎日同じ事務所で、同じ机に向かうってのが、俺には向いてないんだ。
毎日イカしたロックを聴きながら車を転がして、見知らぬ町に出掛けて仕事をこなしたり、今回のように、オファーがあれば、遠くの街に出張したりするのさ。
満員電車に詰め込まれ、痴漢と間違われたりするのはゴメンだからな。
つまり、これはこれで結構面白いモノさ。
仕事仲間と下らない下ネタで笑いあったり、困難な仕事を何とかヤリきったり、それなりの充実感はあるものさ。これで実入りがもう少しありゃ…、まぁろくでもない事に無駄遣いが出来るだろう。
何より自分がやった仕事が形として現れる。見る目のある奴が見たなら、手抜きや失敗は一発で見抜かれる。自分が汗をかいた分だけ金になるのさ。所詮、一人の男がかける汗の量など知れているさ。だからこそ、嘘やマヤカシが通用しない。小手先口先でカバー出来る事は、この世界ではしれているんだ。誠実に仕事に打ち込まないとな。それが女業と男業の大きな違いだ。女業は程度の差こそあれ、嘘やマヤカシでどれだけ男に金を吐き出させるかが勝負だろ?
でもイエス様だって大工だったんだぜ。キャバクラの店長や株屋のイエスなんて、なんか胡散臭いってもんだぜ。
そりゃもちろん辛い時もあったさ。特に若い頃は、何をしたらいいのか、判らなくて親方に訊いてみると、『そんな事も判らねぇのか、バカ野郎!』と殴り飛ばされ、自分で考えてなんかやってみると『誰がそんなことやれって言った!このバカ野郎!』と殴られたりしたもんだぜ。今になれば、その意味もわかるが、あの頃はひたすら悔しかった。夜中の2時に飲み屋に呼びつけられて、なんだかんだといちゃもんつけられて、したたかにぶん殴られた事もあった。車でコンビニに弁当を買いにパシらされ、買ってくると、車に置いてあった財布がなくなった、鍵はちゃんとかけたのかよ!って殴られたうえに、金を巻き上げられた事もあった。
悔しかったな。毎日惨めで悔し泣きしていたモノさ。それでも今こうして働いているのは、もちろんロックの助けがあったからだ。そんなとき一番よく聴いたのは、The Who のThe Dirty Jobs だ。
養豚場で働いたり、明日閉鎖される炭鉱で炭鉱夫達を運ぶバスの運転士の若者が、自分の人生は萎れていると嘆くんだ。もし、反抗したなら辛い目に遭うのも、屈辱を味わうのもあなた自身だから我慢しろと彼女に諭されるんだ。
けれど、若者は自分の人生が萎れていても、物事は刻一刻と移り変わっていくし、自分は何が正しいか知っている。だからもう泣きはしないと自分に言い聞かせるのさ。そして、どうやって戦うべきかは子供の頃を思い出せばいいんだと歌い上げるのさ。
辛くても、自分の中に倫理を持つべき事は、The Who から(そして、戦後詩の巨人、吉本隆明の詩からも)教わった。ロックがなければ、とっくに残酷な世界に打ちのめされて、死んでいただろう。生きていても、脱け殻のような男になっていただろう。Pearl Jam のエディ・ベターも、このThe Dirty Jobs の入ったアルバム『四重人格』がなければ、きっと死んでいたって言うのを聞いた事がある。
君がもし、行き詰まり、誰からも理解されず、助けてももらえない時には、是非とも聴いて欲しい。僕は一人"I'm one"という孤独こそが、"I'm The One"という自負、つまり僕は僕だ!という堅固な自我に転換する曲もある。確かに今でも俺の支えになっているアルバムなんだ。
そして意外かもしれないが、写真にはまったのも現場仕事がきっかけだったんだぜ。
工事には、工事写真が必要だ。施工前、施工中、施工後と写真は欠かせない。昔はよく、写るんですで撮っていたんだ。ある時、あれは長野オリンピックの少し前だ。仕事で長野に出張したんだ。長野から新潟に向かう国道沿いで仕事をしていた時、ふと道端の侘しい社が目に止まり、俺はフィルムが数駒余った写るんですで撮ってみたのさ。

Tokyo

それが、今でも覚えている初めて意識して撮った写真だった。
その夜、俺はコンビニで写るんですを買って、宿の周りの繁華街(とはいえ長野は昔から教育県で、繁華街とはいえ大人しかったと記憶している。なんてったって、ラーメンのチェーン店にラーメン大学ってのがあるくらいだ)の写真を撮ってみたんだ。もうその時から、今の夜景、繁華街、風俗etc. ってスタイルがあった事に今気がついて驚いているんだ。
それからしばらくして、初めて自分のカメラを買いに行ったのさ。
そんな現場仕事だが、最近どうも様子がおかしい。昔は、昼飯代わりにワンカップを飲んだり、公然と休憩中に賭博紛いの花札がやられていた。ヘルメットなんか頭に乗せるだけ、夏はランニングシャツ一丁ってのもなんともなかった。くわえタバコで仕事しながら、下ネタで笑い転げ、いい女が通ると、皆ニヤニヤジロジロ舐めるように見ては手が止まっていた。厳しい世界ではあったけれど、どこかフリーな感覚があったんだ。
しかし、今は違う。夏でも長袖は当たり前。ヘルメットのアゴヒモが緩んでいると注意され、第三者に不快感を与えない身なり行動を心掛けろだ。
まぁワンカップやくわえタバコはさすがにどうかとも思うが…。あまり厳しすぎるのも、息がつまるな。もともと横着者でサラリーマンには向かない奴等だというのに。男達は品行方正を求められ、少ない仕事を奪われる事を怖れて、萎縮しているのさ。
香港に行ってみるがいい。長袖どころか、短パン一丁でおまけに上半身裸、足元はビーサンで工事している奴がいっぱいいるぜ。レッチリの真似してるのかと思ったぜ。
俺たちもほどほどにしておかないと、息がつまっちまうだろう。大卒の職人が現れる日も遠くないさ。大学も出てない奴等は、現場仕事にすらありつけず、ニートになって引きこもるか、パチンコ屋に入り浸るようになる日も遠い未来の事じゃないだろう。ヤレヤレ、日本の行く末がますます不安になってくるぜ。真面目もホドホドにしないと、俺たちみんな、息がつまっちまうだろうさ。

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