2010/12/29

Post #40 Fragment Of Fragments #4

あれは、もう6年程前の冬だった。俺は仕事で日本海側の寂れた町に行っていた。一晩で湿った雪が膝まで積もるようなところだった。
車で現場に行くと、先ずは30分くらい雪かきをしなけりゃならないようなところだった。毎日、Tシャツ一枚になって雪かきしたもんだ。
国道のトンネルの通信設備の点検をしていたんだ。雪かきが終わると作業服の上からカッバを着こみ、さらに反射ベストまで身に着け、ヘルメットにゴーグル、防塵マスクに長靴といった完全装備で、1キロ以上もあるトンネルの中を何時間も歩いて点検していたんだ。どうしてカッパに長靴かって?外は雪だから、車が泥をはね上げてゆくからさ。それにトンネルは岩盤を穿っているだろう。水脈があったところからはコンクリートのひび割れから、水がしみだしてびちょびちょしているのさ。それに車の排気ガス。ゴーグルとマスクは必須だ。死んでしまう。Very very Hard Workだったぜ。
それが終わると、トンネルのそばに設けられた機器室に行って、装置の動作試験をするわけだ。これをやっておかないと、トンネルの中で火災事故が起こった時、天井にぶら下がっているジェットファン(君も見たことがあるだろう。直径2メートル、長さ5メートルくらいの円筒型の巨大なファンがトンネルの天井でゆっくりと回っているのを)が止まらず、なかなか火が消えなくなってしまうからね。
機器室はトンネルのすぐ横に設けられている場合もあるが、なかにはトンネルの真上、つまりトンネルが貫いている山の上の方に設けられている場合もあるんだ。
俺はその日、そんな山の上に建てられた機器室に行くために、元請けさんが運転する四駆のハイエースの助手席に座っていた。
周囲は雪景色。人も通わぬ林道に刻みつけられた車の轍だけが、茶色いぬかるみになって、地面の土のを晒していた。無論、人影はない。まぁ、こんな雪の積もった林道に用事のあるような奴はなかなかいないだろう、俺たち以外はね。
それどころか、獣の気配すらない。
静かだ。
見渡す限り雪化粧した山はひっそりとしていた。車のエンジンの音だけが、聞こえて来るような静けさだった。あまりの静けさ故に、俺も元請けさんもただ黙って、林道の行く手を見つめていたのさ。
ゆったりと右に曲がった山道のカーブの向こう、木々に遮られて見えなくなったあたりから、大きな黒い鳥が飛び上がるのが見えた。
あれはカラスだろうか?それとも鷲や鷹なんかの猛禽類だったかもしれない。
俺は何かあるんじゃないかって予感がした。
そして、車がゆっくりとカーブを曲がった時、それは見えた。

一頭のイノシシが死んでいた。
On The Road
俺は、車を止めてくれるように頼むと、シャーベットのようになった雪を踏みしめて、死骸のもとに向かった。

それは、不思議と嫌悪感や不快感をもよおすようなものではなかった。

むしろ、俺には美しく感じられた。

人間はこんなに美しく死ねるだろうか。力尽き、ふと座り込んで動かなくなる。獣に肉を喰われ、鳥に臓腑を食らわれる。

後にはきっと、白い骨が残るだけだろう。

それは自然なことに思える。

ああ、俺にはすごく自然で美しいことに思えるんだ。そんな死に様も悪くはないんじゃないかって?

俺は、カメラを取り出し、シャッターをきった。それが、この写真だ。

裸の目には、全ては美しく見える。

けれど、現実は、そうはいかないんだ。

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