2015/03/16

Post #1440

Kathmandu,Nepal
先日、アパートの階段の踊り場に座って、ぼおっと往来を眺めていると、誰かが階段を上ってきた。隣の部屋に住む若者が帰ってきたのかと思ったら、あまり見覚えのない青年が上がってきた。
彼は俺の棲む部屋の壁を隔てた隣に住む若者で、隣の階段を使っているので、あまり見た覚えがなかったのだ。
彼は隣の部屋に住んでるものですと名乗った。
俺がイカれたロックをガンガン聴きすぎて、苦情が来たのかしらん?と思ったが、彼のすぐ後に赤ん坊を抱いた女性が上がってきたので、何となく事情が呑み込めた。

彼が言うには子供が生まれ、今日奥さんが実家から赤ちゃんを連れて帰ってきたので、ご挨拶にきましたってんだ。
ご挨拶ったって、そんな大仰なって、却って恐縮してたら、彼は言うんだ。
『なにぶん赤ん坊のことですから、泣き声とかでご迷惑をかけるでしょうが…』と。
世知辛い世の中だ。そんな当たり前のことを気にしなけりゃならないとは。
俺は彼にいってあげたよ。

『いやいや、おめでとう!やったね!よかったね!
迷惑?何を言ってるんだい?赤ん坊は泣くのが仕事でしょう?迷惑になんか思わないよ。それよりも初めてで大変だと思うから、僕のほうこそ、力になれることがあったら、なんでも相談しておくれよ、もっとも、僕も子供を育てた経験はないんだけどね!』
俺は自分のことのように喜んでしまったよ。
若い彼は、ロックなおっさんの喜びように少し戸惑っていた。
若い奥さんは、俺のハートフルな言葉に、その言葉だけでもうれしいですって顔をほころばせていた。
彼女が抱いた赤ちゃんを見せてもらうと、小さくてかわいい女の赤ちゃんだった。
彼女がこれから歩むであろう人生に、幸あれ!
ご挨拶のしるしにって、丁寧に箱詰めされたタオルを頂いたぜ。まったく恐縮しちゃうなぁ。俺にそんな気を使わなくってもいいのに・・・。

生まれてくる子供たちのために、俺たちは今よりもマシな世界にしてゆかねばなるまいな、そんなことを想ってたのさ。
その日以来、耳を澄ますとどこかで猫が鳴いてるような、小さな泣き声が壁の向こうから聞こえてくるのさ。赤ちゃんは今日も元気だってことだ。なんだかウキウキするね。

俺の大好きな小説、カート・ヴォネガットの『ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを』の中の、主人公ローズウォーター氏の言葉を想いだした。
素敵な言葉だ。生まれてきた赤ちゃんに捧げたい。

『こんにちは、赤ちゃん。地球へようこそ。この星は夏は暑くて、冬は寒い。この星はまんまるくて、濡れていて、人でいっぱいだ。なあ、赤ちゃん、きみたちがこの星で暮らせるのは、長く見積もっても、せいぜい百年ぐらいさ。ただ、ぼくの知ってる規則が一つだけあるんだ、いいかい―
 なんてったって、親切でなきゃいけないよ』(早川文庫版、浅倉久志訳、P146から)

読者諸君、失礼する。俺の方は、出来るだけ頑張ってるんだけれど、なかなかまだまだ子供は授からないなぁ・・・。

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