2015/10/25

Post #1663

山門にかかる月
今日は仕事で福井まで往復してきたんだ。片道2時間以上、仕事は20分。ドライブを兼ねてカミさんも連れて行ったんだが、スピードの出しすぎだとか言って、終始小言を頂戴して、どうにも疲れたぜ。
まぁ、それはイイ。昨日の夜の肝試しだ。
俺は、昼間の仕事を終えて家に帰ると、そそくさと飯を食い、車に乗り込んで夜道を飛ばした。木曽川沿いの堤防道路だ。俺の大好きなドライビングルートだ。
今夜の目的地は、成田山の名古屋別院だ。小高い山の山頂にそびえてる。そして、その山の斜面に墓場が広がっている。そこがこの夜のフィールドだ。
俺のいでたちときたら、ダブルのライダース・ジャケットにヒョウ柄のスキニーパンツ、リーゼント風の髪形に、足元はドクター・マーチンのブーツだ。どこから見てもロッカーだ。子供さんたちにもつかみはばっちりだろう。首にはネパールで手に入れてきたドクロの数珠が下がっているのも、アクセントが効いていていいんじゃないか?

時間に余裕をもって出かけたので、まだ誰もついていない。月が周囲を明るく照らしている。こんな時は、懐中電灯なんかつけると、そこしか見えなくなってかえって危険だ。暗がりに目を鳴らしておかないとな。俺は独り懐中電灯もつけずに、下見を始めた。

月明かりに俺の影が伸びている。この写真の先には左手に毘沙門堂やら墓場やらがある。登り切ったところからは、濃尾平野の夜景が一望できる。そしてそのすぐ足元には水子供養の小さな地蔵がずらりと並んでいるってもんだ。さらにうえには大仏がどーんとちんざしているんだ。なかなかいい。シャコタンのレクサスに乗ったヤンキーが来ていたり、エンジンだけかかった車の中に、若い男女が抱き合っていたりする。こんなのなにが怖いもんか。子供たちを使って、カップルの乗った車をギシギシ揺らしてやるのも悪くないぜ。楽しみだな。

俺は、墓場のある山の裏手から境内に入り、独り夜景を眺めていた。
ずいぶん昔、よく女の子とこの夜景を見に来たものだ。その娘は今じゃどうしていることだろう。今更知ったところでどうにかなるものでもない。一瞬交わった人生は、一度離れてしまえば、よほどの強い縁がなければ、再び交わることはないものさ。そんなものさ。どのみち、今の俺には何もしてやれないだろうしな。とはいえ、忘れたくもないというのも事実だが。
過ぎ去った人生の一コマを思い返す中年のおっさんの感傷など、小学生の子供たちにはわかるはずもない。
大人になるとは、そんな感傷をしこたま胸の中に抱え込むことだ。
俺はそんなことを考えながら、参道を一人下って行った。

約束の時間だが、まだ誰も来ていない。俺は生垣の上に仕事で使っている充電式のランタンを置くと、煙草を吸い始めた。きっと、俺の姿は下からの光に照らされて、不気味に見えるこったろう。

そうこうしていると、ワイワイガヤガヤ騒ぎなら、10人ほどの子供たちが上がってくる。みれば、俺にこの大役を依頼した高校時代の同級生の成れの果てと、もう一人子供たちのお母さんが同行している。
まだ俺に気が付いてないようだ。俺はがさりと生垣をゆすりながら立ち上がった。その音に気が付いた子供たちが、下からの光に照らされた異様な風体の俺を見て、うわぁ!とか声をあげてビビっている。よし、受けてるぞ!この先制攻撃は有効だったようだ。

俺は子供たちに『俺がソーゴ君のお母さんの同級生の服部だ』と名乗ると、パドックに入って出走を待ってる競馬馬みたいに出発したいばかりの悪ガキどもに、自己紹介するよう促した。
子供たちは小学六年生のソーゴ、リョーマ、藤木、たつや、小学一年のカツ。このほかに、女の子も三人ほどいる。カツのお姉さんたちだ。一番上のお姉さんは怖くて参加できないけれど、家で一人で待っているのも怖いのでイヤといってついてきた。しかし、怯えっぷりが尋常じゃないので、同級生の旧姓古澤さんに頼んで、一緒に車のあたりで待っていてもらうことにした。

俺は、一通り自己紹介が終わると、今夜は俺のことを隊長と呼ぶように、悪ガキどもに命じた。

さて、今日は久々に長距離運転して疲れたんで、この辺でやめておこう。
明日だ、明日。俺たちには明日があるんだ。そもそも、これ以上だらだら書いていちゃ、きっと君まで疲れちまうだろうし、俺も久々の長距離運転でお疲れなのさ。少し眠らせてくれないか。

読者諸君、失礼する。続きは明日だ。

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