2015/10/26

Post #1664

この年までどうにかこうにか生きてきて、なんとなく思うのは、人生ってのは、少なくとも俺にとっては一種の肝試しみたいなもんだってことだ。
なにしろ、いつだって、先なんか見えているわけじゃなかった。何の見通しもない真っ暗な道を、明かりもなしに手探りで歩くようなもんだ。
平穏無事に暮らしているように見えるかもしれないけれど、毎日リアルに肝が試されているのさ。

そんなことを子供たちに伝えてやりたいもんだが、そういった抽象的な思考能力は、思春期前の学童期の子供たちには、まだ備わっていない。そういうのは、人生を俯瞰できるようになって初めてわかることなんだ。

だからこそ、きょうの経験を忘れないっでいてほしいもんだ。

俺たちは、わいわい言いながら裏山に通じる車道の急峻な斜面を登って行った。
どいつもこいつも、買ったばかりの懐中電灯を振り回している。
そんなんじゃちっとも怖くないぞ、消すんだ。
俺がそういうと、子供たちは何も見えないと抜かしやがる、馬鹿いえ、こんな月の明るい夜なんだ、懐中電灯なんかなくったって、十分見えるって、闇になれることが大切だ。
子供たちは、俺にどうやってみるんだよ、隊長?って聞いてくるけれど、そんなの教えられないぜ。

『心の目で見ろ!』

俺はそういうと、もう一度皆に懐中電灯を消すように促した。そういうもんはココ一番の時にとっておいたほうがいい。途上国を旅していると、真っ暗な道で獣のように目を光らせている男が、夜道を歩いているのに出くわすことがある。見えなくても、目を凝らすことで、見えてくるものさ。
闇になれなくちゃな。
なにしろ、俺たちは真っ暗闇の中から生まれてきて、真っ暗闇の中に死んでいくんだぜ・・・。

俺たちは、第一のチェックポイント毘沙門堂の参道前にやってきた。
立木に覆われた暗い道が、山の斜面に伸びている。
『お前ら、この道の奥のお堂に、独りで行ってこいよ。』
俺はこの道の奥のお堂に、独りでいって、ちゃんとそこまで行った証拠に、俺がお堂の前に置いておいた俺の名刺を持ってくるというミッションを与えた。
『まじでっ?ムリ!』
ガキども、早くいきたいと威勢は良かったが、実際にミッションを与えられると腰が砕けてやがる。人生はいつだって、独りっきりで戦っていかにゃならんもんなんだが・・・。
『馬鹿野郎、きんたまついてんのかよ?あ、すまん女の子もいたわ!仕方ない、二人一組で行ってこい!ツーマンセルだ。二人小隊だ。足元が悪いから懐中電灯をつけることを許可する。前を照らすんじゃなくて、足元を照らすんだ!それがポイントだ!』
人生だってそうだ。先ばかり見ていても、足元がおろそかになっていると、思わぬトラブルにケ躓く羽目になるのさ。

二人のガキどもが、ひーひー言いながら暗い道を登っていく。
待ってる子供たちには、懐中電灯を消すようにいうと、子供たちは暗いのは怖いというんだ。
『どうして暗いのが怖いんだい?眠るときは暗くないと眠れないだろう?闇は敵なんかじゃない。友達なんだぜ』
『そりゃそうだけど…』

二人組が興奮して帰ってきた。俺の名刺をもってきた。次の二人が入れ替わりで駆けだす。帰ってきた奴らは、怖かっただの、怖くなかっただの言って大騒ぎしている。どっちなんだよ。そして、後続の連中が遅い、あいつらはビビってるぜとかいってるんだけど、最終組の女の子に、あんたたちもおんなじくらいだったよって言われて笑っている。
俺は子供たちに『ここは毘沙門天ってインドの神様をお祀りしてるお堂だから、怖い事なんか何もないぜ。インドの名前はヴァイシャラヴァナ。それが日本に来ると毘沙門天って名前に変わるんだ。インドの北のほう、ヒマラヤあたりに住んでるとされた神様で、上杉謙信も信仰していたんだぜ』
知らないよりも、知っているほうがビビらなくてすむものだ。俺は子供たちに、上杉謙信は自分が毘沙門天の化身だと信じていたから、自分は決して負けないと信じていた話や、謙信が敵の鉄砲や弓矢が飛んでくる真ん中で、酒を飲んで相手を挑発した話なんかをしてやった。
そうこうしているうちに、最後の組が帰ってきた。
子供たちは、さっきまで怖がっていたくせに、ちゃんとお堂にいってお参りしたいと殊勝なことを言い出した。
細い車道で、上りと下りの車が、道幅が狭いがために行違うことが出来なくて、危なっかしくて仕方ない。暗い夜道より自動車のほうがおっかないのが現実だ。お参りにいくと称して、こっちの暗い道を登って行ったほうが、断然安全だ。
OK、イイだろう。みんなで行こう。
『野郎ども、ついてこい!』
俺はそう声をかけると、みんなの先頭に立って、お堂まで登って行ったのさ。

しばらく行くと、大きな六地蔵が並んでいたんで、子供たちをその間に立たせて写真を撮ってみたんだ。『おい、一人増えてないか?』なんて言いながらな。

読者諸君、失礼する。この話はもう一日くらい続けてみようかな。

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