2015/10/27

Post #1665

真っ暗な夜道を歩くのに、灯りが必要だ。いくら闇の視力があってもね。暗室だって赤い暗室電灯がないと仕事にならないしな。
俺の真っ暗な人生で、ロックンロールは灯りがだった。そして、ずっと心のなかから消え去ることのなかった女の子達。彼女たちに恥ずかしくない男になり、一本筋の通った男ででいつづけること、それが俺を今日まで引っ張ってきた。
いつか、再会したときに『一人前の男になったね』って言われたいだろう?
そんな野望があるから、こんな肝試しみたいな危うい人生を歩んでこれたんだ。ロックのビートに踊るようにしてね。

さて、次のミッションはいよいよ墓場だ。若い頃、女の子と眺めた夜景のすぐしたに、黒々と広がっていた墓場だ。
さすがにここは、ヤバいかもしんないな。なにしろ昔の記憶が鮮明なんで、あんまり真面目に下見してなかったからな。
俺は、子供たちにそのまま待ってるように言うと、独りで墓場のなかに歩いていった。灯りは付けないでね。
みんな墓場を怖がるけど、あれはなんだろーな。
死んでたって、生きてたって、俺たちおんなじ魂だろう?
俺なんか生きてるやつらのほうが何をしでかすか分からねぇぶん、おっかないくらいだってのに。
縄文時代の人たちは、集落の真ん中にお墓を作っていたそうだ。節目節目に墓場を囲むようにして踊り、あの世から甦った死者たちと踊ったもんだぜ。こいつが盆踊りのルーツだ。
とはいえ、それはこの世とあの世が近かった大昔の話。今では死者は人々の目に触れないように巧妙に隠されている。病人も老人も障害者もだ。おかしな世の中だ。俺は、こんな世界はいつも不自然だと思ってるのさ。

ずっと奥まで歩いて行くと、開けた場所に小さな水子地蔵がたくさん並んでいる。
うん、ここだな。
俺は振り返ると、現場で鍛え上げた大音声で、懐中電灯をともして、一人づつこちらに来るように声をかけた。待ちきれず焦れたように子供たちがおっかなびっくりかけてくる。そして、たどり着いた子供たちは眼下に拡がる夜景を見て、歓声をあげている。
それでイイのさ。
全員揃ったところで、俺は子供たちを一人づつ墓石の間に立たせて、写真を撮ってやったのさ。夜景をバックにね。子供たちは、お互いに墓から手が出てくるんだぞとか言い合ってはしゃいでいる。
子供は何をしても愉しいもんだな。

俺は子供たちに尋ねた。
『君たちはこのお地蔵さんがなんだか知っているかい?』子供たちは誰も知らない。
『こいつは水子地蔵って奴でさ、お母さんのお腹のなかにいるうちに死んでしまったり、いろんな事情で中絶されたりして、この世に生まれて来ることが出来なかった子供たちを慰めて供養するためのものなんだ。』
俺には妊娠6ヶ月の息子がいるからな。切なさが身に染みる。俺は賽の河原で父母恋しいと石を積み、鬼に苛まれ泣き叫ぶ子供を助けてくれる地蔵菩薩の話なんかしてみた。
その上で『君たちは幸いなことに、こうして生まれて来ることができた。けど、それはスゴく幸せなことだし、君たちの命はたいへんな思いの結果ここにこうしてあるんだぜ。どこかで歯車が違っていたら、君たちがここで供養されてたかもしれない。だから、君たちの命はかけがえがないんだ…。だから、自分も周りの人たちも大切にして欲しい』
柄にもないけど、たまにはイイこと言ったってイイだろう?
子供たちは神妙に聞いている。真ん中の大きな地蔵の足元には、おもちゃやぬいぐるみが置いてある。それを見て、子供たちはなにかを感じている。
そう、それでイイのさ。

俺たちは、墓場のなかの石段をあがり、カップルの車がたくさん止まっている駐車場のはしに鎮座してる大仏の台座にのぼって夜景を眺めた。
大昔、女の子と眺めた夜景だ。この灯りの一つ一つに、喜怒哀楽をもったニンゲンが生きているのが、今の俺には解る。この子達はそれを分かってくれるだろうか?
いやいや、みんな大仏の下に止まってる車を、手にした懐中電灯で照らしている。やめろって!
俺がポツリと『昔彼女と初詣なんかにきて、この夜景を眺めたもんさ』というと、子供たちは『それは隊長の今の奥さんですか?』なんて聞きやがる。
『う~ん、前の前の前のそのまた前の前くらい?の彼女かなぁ?いちいち数えてらんないよ』
俺がそう答えると、子供たちはびっくりしてやがる。『ニンゲン46年もやってると、そんなもんだよ』困ったように俺が言うと、『うちのお父さんと同じくらいだ!』と驚きの声があがる。そーだろうよ。
『君のお父さんとはだいぶ違うだろ?』俺が訊くと『ゼンゼン違う』と言ってみんな笑うのさ。そりゃそうだ。俺はアハハハ!と高らかに夜景にこだまするような高笑い。
子供たちには、この高笑いが強烈なインパクトだったようで、参道の石段を下りながら、みんなアハハハと俺の真似をして笑ってやがる!
さぞかし、ロマンチックな気分で夜景を楽しんでたカップルの皆さんに顰蹙を買ったこったろう。なぁにかまうもんか。

幽霊だのふらついていたって、こんな高笑いでを聞かされちゃ、近寄っても来ないものさ。俺の魂は、死んでる奴らみたいな弱々しいもんじゃないんだ。
怖いものなんて、かみさん以外にありゃしないのさ。

読者諸君、失礼する。俺は最後に子供たちに、家から持ってきた伯方の塩をドバドバ振りかけてやったぜ!みんな頭や肩に塩を乗っけて喜んでいたのさ。またやろうぜ!

2 件のコメント:

  1. 素晴らしい!
    僕の小さいころも近所に変わったおじさん(お兄さん?)
    がいたような気がします。
    彼らに小さな足跡を残しましたね。

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    1. なんだか、めちゃうけてたみたいです。(笑)
      家に帰ってから親御さんに「隊長が!隊長が!」と語り続ける子供さんもいたようですし、「あの人、見た目すごい格好なんだけど、すごく頭いい!どうやったら滝高校(ぼくの母校で近隣で有名な進学校。先日の師匠はそこの先生でした)に行けるの?」とか言い出す子までいたようです。
      まぁ、初対面の子供たちには、ある意味肝試しより強烈な体験だったかもしれませんねぇ(笑)

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