Photographica #M

森山大道

『新宿』

2002年8月 月曜社刊

森山大道の写真集は、数えきれないくらい持ってます。ファンですから。
けれど、一冊選べと言われれば、僕は迷わずこの新宿を推します。
今では文庫サイズの分厚い『新宿+』を経て、一万円くらいする大型本の『ニュー新宿』も出ていますが、あえてこのブレた写真にピンクの文字が絶妙のコントラストを醸し出す、この2002年版の『新宿』をお見せしたいのです。

森山大道をドキュメントした映画『≒森山大道』には、門外不出とされてきた暗室作業等も映されていて興味深いったらないのだけれど、最もクールだったのは、大道さんが忌野清志郎の名曲『不真面目に行こう』の流れる中、夜の新宿歌舞伎町、ゴールデン街界隈を、スナップして歩き回るシーンです。
飄々と、すれ違いざまに、小さなコンパクトカメラ一丁で夜のアトモスフィアを、人間の欲望を切り取っていく姿は、そりゃもうたまらなく格好いいもんでした。
そして、そこでスナップされた写真のいくつかは、この写真集の中におさめられています。
夜の写真は、生々しくどれも、セクシーなものです。もちろん、レンズ解放値f2.8、フィルム感度ISO400のトライX (ただし増感してます)なんで、いまどきのデジカメのようにくっきりはっきり夜でも撮れるわけではありません。時にぶれ、時に闇に沈み、時にフラッシュの光に浮かび上がります。
しかし、その映像的な揺らぎとでもいうような、数々の要素こそは、見慣れた風景を、異世界の風景のように窯変させるものだと気づくことが出来るでしょう。

僕は、スナップシューターとは、いったいどんなものなのか?ということをこの写真集を教本にして学んでいったように思います。

そしてその最たるものこそ、写真を撮る場所(つまり写場)ってのは、あくまで路上なんだってことです。
つまり、スナップシューターにしてみれば、娑婆こそがリアルな写場なわけです。

久々に本棚から引っ張り出して見てみると、自分の写真が、撮影もプリントも、どれだけ大道さんの影響を受けているかがわかります。
そして、未だにその強烈な引力磁力を振り切れないことを、痛感します。
いくら芸術ってのは、模倣から始まるとはいえ、大道さんの存在ってのは、容易に振り切ることが出来るようなものではないんです。
もっとも、森山大道を知る前から、自分の撮ってた写真の傾向ってのは変ってはいないので、本来的に僕には大道さんの写真のベクトルと共振しやすい素養があったんだと思います。
とはいえ、その引力重力から逃れるのは、僕の課題でもあるのですが。
この写真集を通じて、どんなものでもフィルムにおさめてしまえば、写真として成立するのだ、と教えられたように思います。
また、『写真は量である』という大道さんの持論を、モノクロ写真をはじめたばかりの自分に、はっきりと突きつけてくれた写真集でもあります。
とにかく、分厚くて、紙も写真集としてはけっこう薄いので、めくってもめくっても、次々と新たなイメージが飛び出してきます。何度見ても飽きません。ほんとうに素晴らしい写真集ですねぇ、こいつは。

ほとんど縦位置てのも、かなり影響をうけました。
縦位置の写真を、二枚並べたときのつながりや断絶、イメージの響きあいによって生まれる視覚体験。
相通じるものを二つ並べるのか、全く異なるものを二つ並べてそのギャップを味あわせるのか?
そのあたりも写真の面白さの一つなんです。
で、時折挟まれる左右見開きの横位置写真が、写真集全体にリズムを与えてくれます。
とはいえ、この写真集にはノンブル、つまりページ番号とか一切ついていません。とにかく、手に取りぱっと開いたページを見ろ!ってことでしょう。カメラの前では全ては等価であるってことが、そこでも黙って記されているようにも思います。

この写真集から学んだことは、本当に多いです。自分の持ってる写真集の中で、ベスト3を選べと言われたら、まず真っ先にこの写真集を挙げるでしょう。

僕の持ってる『新宿』には、大道さんのサインが書いてあります。
これ、サイン入りを買ったんだったかなぁ・・・、それとも講演会とかで何度かお話を聞かせてもらった時に、おずおずと差し出して書いてもらったんだったかなぁ。
どっちにしても、素晴らしい写真集です。

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