Photographica #E

Ed Van der Elsken

『セーヌ左岸の恋』

河出書房新社2003年1月刊

これは、日本版が出たのがこの時だってだけで、すごく古い写真集です。1956年に、オランダ、ドイツ、イギリスで出版されました。

写真の歴史に残る偉大な写真集です。

全編、ハイコントラストでローキーの写真が続きます。当時としては、独特のプリント技術です。
これは、のちに日本の写真家集団VIVOなどを通じて、森山大道にも影響を与えたんだろうなってのは想像できます。

プリントの焼のせいで、女の肌が黒くてきれいじゃないんだけど、そこがまた妙に生々しいんですよ。
この写真集は、一つの私小説みたいに構成されているんですけれど、これは写真を基にしたフィクションなんだそうです。まるでアラーキーですね。
エルスケンは1925年にアムステルダムに生まれ、90年に亡くなっています。
47年に写真を撮りはじめ、50年にパリに出てきます。
そして、芸術家やその卵たちがひしめいていた、セーヌ川左岸のサンジェルマンデプレ界隈に惹かれてゆきます。
彼らはカフェや地下鉄の構内で寝泊まりしながら、放蕩無頼の生活をしていました。1953年には、NY近代美術館の写真部長だったエドワード・スタイケンが、エルスケンの元を訪ねてきて、彼が撮りためたパリの若者たちの写真にたいそう感心して、写真集にまとめるように助言しました。そうしてできたのが、この『セーヌ左岸の恋』です。写真をやってる人なら、必見です。
一連の写真は、映画のシナリオに沿うように編集され、一つの恋のストーリーを作っています。
写真集のヒロインであるアンを演じているのは、オーストラリアからダンサーになるためにパリにやってきていたヴァリ・メイヤーズという女性です。写真集は、ストックホルムからパリに辿り着いたメキシコ人青年マニュエルが、アンに寄せる実りのない恋の物語という筋になってます。その物語の中、何者かになろうともがく若者たちは、酒を飲み、煙草を吸い、いちゃつき、交わり、盗みを働き、何とかその日その日をしのいで生きています。
その反社会的な生態ゆえに、出版当時は物議をかもしたそうです。


エルスケンの写真は、そんな若者たちの生活を、ドキュメンタリーとして切り取り、強烈なコントラストを持つ、一目見たら忘れられない写真として、表しています。
僕はこの写真集を、家の近所の本屋さんの写真集の棚の片隅で見つけて買いました。
出来たら、写真を繋ぐ物語を味わうためにも、日本人のあなたは河出から出ている日本版を探して手に入れてみてください。
どうしても、見つからないってんだったら、うん、仕方ないな。俺が貸してやるよ。

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