| Essaouira,Morroco |
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師匠は『おまえの結婚と子供のことを手放しで目出度いという手合いもいるが、俺はおまえのことを子供の頃から知っているから、その決断をするのにどれだけ悩んで決断したかわかっているつもりだ』
さすがは我が師匠。
俺の父親以上に俺の事がわかっている。
俺は、何も言わず冬の日射しを不意に眩しく感じたかのような面持ちで、何も言わずに師匠の次の言葉を待つ。
『自由とは、なにか?』
師匠が短い沈黙のあとに、重い言葉を放った。
もちろん、師匠も俺も、その問いに答えはしない。なんとも答えることの出来ない重たい問いだ。
それは、師匠自身が探し求めてきた問いだとわかるし、それが今、俺に引き継がれたことを感じだ。むろん俺もその問いを求めて生きてきた。その何十年に、喜寿を越えた師匠の何十年の重みが加えられたのを、感じる。
『放浪と定住…。それが俺にもお前にもテーマだった。』
師匠はそう続けた。
さすがは我が師匠。どうしてこうも的確に人生の問題の本質を抉るのか。生涯年収だとか老後の生活資金にはいくら必要とか、この二つの問いの前では、くだらない些末なことにしか見えない。
『その上で、よく決心したと言っておこう』
まるで禅問答のような師匠の言葉だけれど、俺には痛いほど伝わっていた。
女房子供を背負って、なおかつ何処まで自由に生きて行けるのか、とくと見せてみろと言われた気がしたんだ。
安穏と一所に定住することなく、常に挑戦と放浪の人生を送り、より広い世界を見ろと
言われた気がしたんだ。
俺が師匠に出会ったのは、12才のころ。今から35年前。当時の師匠は白髪長髪の型破りな数学教師だった。42歳だったはずだ。
以来、今日まで実の息子のように教え諭され、導かれてきた。思えばこの日が、師匠から自由人としての免許皆伝をうけた日だった。
忘れたくないので、ここに記しておくことにした。
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