| 宇和島名物 鯛めし |
ケニーと俺は、35年ぶりに差し向かいで座りとりあえず生中だ。痛風の恐怖をぐっと堪えて黒ひげ危機一髪の気分で飲み干すぜ!
よく考えたら、ケニーと酒を飲むのは初めてだった。幼稚園や小学校の頃はお互い酒飲んでなかったしな。そもそも俺、車で移動し、夜働くという暮らしが長いのと、一人で酒を飲むと鬱のデフレスパイラルで廃人同様になってしまうので、普段は酒を飲まないようにしてるんだ。
久しぶりに会ったケニーは、長年のコーチ生活でなめしたような肌をして、すっかり白くなった髪を伸ばしていた。仙人感半端ない。まぁ、プードルみたいなパーマの俺もインパクトではいい勝負だが。
そんな二人が、旧交を温めあって一杯飲んでいる。鯛めしをつつきながらね。フカの酢味噌あえみたいなのもなかなかよそではお目にかかれないぜ。
ケニーは以前朝日新聞に取り上げられた時には、日本人の奥さんがいたはずだが今はいるような雰囲気もない。聞いてみると、あぁ、あの後スリランカだかインドだかでコーチをしたら収入が激減で、家庭を維持できなくなったんで別れたとこともなげに言う。
俺はカミさんがいて、2016年製の小学生の息子がいて、ローンで家を買って自分で商売してると話すと、家庭を維持できるなんて尊敬するなぁと笑われてしまった。
ケニーはいったいこんなところで何をして暮らしているのか?
見たところ、サッカーのクラブチームがあるようにも見えない。そんな疑問をぶつけてみたら、あっさりと通訳をやっていると答えてくれた。ニューヨーク歴20年以上だから、英語はお手のもんだよな。むしろ日本語よりも得意だと思われる。
宇和島の山の中で、ゼネコンが風力発電所を建設しているらしい。風力発電はヨーロッパが圧倒的に先行している。で、ヨーロッパの発電プラントメーカーから技術アドバイザーが派遣されていて、その通訳をしているらしい。ちなみに、その技術アドバイザーはインド人だそうだ。
日本がほとんど鎖国したようにガラパゴス化している間に、世界の技術の潮流は日本を置いてきぼりにして流れてしまっている。モノづくり大国だなんて思っているかもしれないが、もうそんなパワーはない。次の時代を画期してゆくような革新的なものはこの国からは生まれない。トヨタのハイブリッドぐらいのもんだ。
ケニーはその現場で、不安全な環境に鈍麻した作業体制や、ゼネコンの職員のまとっている島流しにあった不遇なおっさんオーラにうんざりしていた。コロコロ言うことが変わるメーカーの技術アドバイザーにもうんざりしていた。
要は、ここは自分のフィールドじゃないと感じているんだ。
彼のフィールドはサッカー場だからな。
ケニーはそんなことを話しながら生中をどんどんやっつけていく。
で、あんまり料理屋に長居するのもなんだから河岸を変えようぜということになって、あのさみしい商店街のほうにふらふらと俺たちは歩いて行ったんだ。
続くかな。
