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| Zagreb,Croatia |
昨日、美容院で髪を切ってもらっていると、隣に騒がしい女が客としてやってきた。
金髪に染めた髪の根元は、いわゆるプリンのような状態になっている。
ちらりと見ると、背も低く、額も狭く、並びの悪い歯は、黄ばんだような色をしていた。おまけに全体に上から押しつぶしたような印象を受ける女だった。神様も、ときに残酷な仕打ちを人間にするものだな。見かけで人間を判断するのはいけないが、立ち居振る舞いや喋り方で、人間は判断することができるものだ。何しろ俺にはスカウターがついているからな。
その女は、メイクをしてもらいに来たのだというが、その野卑な印象が強い顔は、メイクでどうにかなる類のもんじゃねぇな、残念ながらという残酷な印象を俺に抱かせた。
俺は、知性やウィットの感じられない女性は、あまり好きではないのだ。淫らな女は嫌いじゃないけど、野卑な女は苦手なんだ。生理的に、ダメなんだ。すまん。
その女のいささか興奮したような口ぶりからすると、すでにかなり酔っていたようだ。美容師のおねーさんにだみ声でべらべらしゃべり続けている。
そのうちに殺すの殺さないのと、穏やかならざる単語が飛び出してきている。
そうして、美容師のおねーさんのおざなりなマナ返事に物足りなくなったのか、その女は俺に話を振ってきやがった。
おもしれー、受けて立つか?
『・・・おにーさん、そうは思わないですか?』どうにも、俺のアウトローな雰囲気を憚ったのか、それとも卑屈なだけなのか、一応は敬語だが、突如おにーさんと呼びかけられて、俺は何だぁ?って感じだったのさ。眉を片方だけ上げて、いささか不快感を表明してみた。
『殺す、殺すって口でいうやつは、実際に殺せないですよねぇ、そう思いませんか?』
知らねぇよ。殺すも殺さないも、縁があるかないかだけの問題だと俺は思ってるんだが、面倒なんで『あぁ。、そうかもしれないな。殺す、殺すって言ってるうちは、心の圧力が減圧されるからな。』
『そうですよね、殺す殺すっていうやつで、実際に殺せる奴はいないですよね。』女は激しく同意する。
『殺したいと思ったら、黙ってさっさと殺めればイイ。人間はバールで思い切りたたいただけで死ぬ』
俺はうんざりして答えたよ。まったくだ。現場には、いろいろと便利なものが転がっているからな。
『もし、相手を殺して、最高で死刑、最低で懲役3年だとする。で、それが割に合うと思うなら殺せばいい。けど今更俺は御免だがね』
憎しみに駆られて誰かを殺すより、女の子とイチャイチャしてるほうが、よっぽど楽しいものさ。
俺がそんなことを言うと、女はさらに何やらまくし立てている。あぁ、面倒だなぁ。
『自分の人生を棒に振っても、相手を殺したいと願うんなら、一思いにやっちまえばいい。俺は若いころ、日本刀が押し入れの中にゴロゴロしてる組織に入ってて、そこにいた連中は、ボスから殺って来いと言われれば、即座に日本刀を持って、殺しに行っただろうよ。俺はそんな世界にいたから、あんたの言うことはよくわかる。割に合うと思えて、どうしても殺したけりゃ、黙ってすぐに殺すんだな。』
これは嘘じゃないんだけど、美容師さんたちもその女も、俺の気怠そうな態度で発せられた言葉に、ドン引きしてしまった気配が伝わってきた。
もちろん、俺はちゃんと分別のある常識人だから、そんなことはしないさ。
第一、それは縁と機会がなけりゃできないことで、決してやろうと思って簡単にできることじゃないんだ。
しかし、まいったなぁ・・・。
女は、当惑したように、話を変えようとした。自分の旦那に困っていること。俺は、こんな女でも所帯を持っていることに、かなり驚いたが、そんなことはおくびにも出さず、即答した。
『そんなに困ってるんなら、別れりゃいいだろう』
連打だ。さすがに酔っぱらいの女も一瞬絶句したが、そこは酔っぱらいの強み、なぜ、自分の旦那に困っているかという事を、くどくど話し出した。俺には関係のない話だが。
曰く、自分は今までいろんな男に苦労して来て、やっとまともな人と所帯を持ったんだけれど、その旦那が酒を飲んで喧嘩して、相手を殴って捕まったのだという。よくある話だ。おかげで、その殴られたほうは片目を失明してしまったそうだ。
俺は苛立つ。
『酒を飲んでも、飲まれるな!』俺はぶすりと宣告するように言い放ったよ。
俺が髪をすすいでいる間に、女は金を払って帰って行った。金を払ってメイクをしたにもかかわらず、ちっとも見れたもんじゃない。やはり、人間性は顔に出る。土台が悪けりゃ、どうにもならんもんだ。金をどぶに捨てているようなもんだ。
冗談じゃない。どうして俺はいつもこんな目に合うんだ。
出来ることなら、もっと魅力的で常識的な女性に話しかけられたりしたいもんだぜ。
俺はいつもこんなくだらない話を聞くと、シベリアかアマゾンの奥地にでも旅立ちたくなるよ。人間のいない、清浄な世界にね。
けれど、こんな奴らがごまんといるのが、俺の生きている世界だ。貧乏人の世界だ。いついかなる時も、寛容さを保つのは、ホント~に難しいもんだ。
読者諸君、失礼する。世の中には、いろんな人がいる。面白いもんだが、気がめいるぜ。