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| ARAKI TOKYO LUCKY HOLE,Published by TASCHEN |
世界を股にぶっ掛けて、ついに俺の手元に本が届いた。
ニッポンが世界に誇る偉大な写真家、荒木経惟の『TOKYO LUCKY HOLE』だ。
この本の日本版に関しては既にご紹介している(
http://fragment-sparks.blogspot.jp/2013/02/post-719-tokyo-lucky-hole.html)ので、熱心な読者の方は、またおんなじ本を買ったんか君は、アホじゃないの?そういうのを金をドブに捨てるというんだぜと、お嘆きのことだろう。
放っておいて欲しいぜ、俺の金だ、どう使おうと俺のカミさん以外に迷惑をかけるこたぁ、無いはずだ。だってほしかったんだもん、しょうがないじゃん。
CDだって、リマスタリングされて、音質は向上、なおかつ未発表のボーナストラックがついてたら、欲しくなるのが人情でしょう?こういうのは、まぁそうしたもんですよ。
それ以上に、700ページという、ちょっとした辞書くらいのヴォリュームになっているんで、迷わずクリックして買ってしまったのだ。
大いにマン足だ。
まず、日本版は判型も一回り小さく、いわゆるペーパーバックのようなざらっとした紙に印刷されていたんだが、このドイツ版はちゃんと上質紙だ。こうしてみると、上質紙ってのはツルツルしていて、俺の愛用しているRCペーパー(印画紙だよ)を思わせて、ヌメッとした写真的な質感があってよろしい。やはり、写真とお肌にはうるおいが必要だ。
それに何と言っても、日本版は20年くらい前に出版された初版だったから、紙の焼けが結構ありましたんでね。
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| Kabukicho,Tokyo |
さて、このドイツ版は単に日本版をドイツで出版したという訳ではなく、まったく新たに編集しなおしているので、ちょっと芸術的にまとまっているような印象も受ける。というのは、日本版のほうは、伝説の写真雑誌『写真時代』の連載を、順番に並べていったような形式になっているのに対して、ドイツ版は一冊の写真集という、全体として構成された形に編集されているからだ。
具体的には、同時期に撮影されたと思しき、毎度おなじみのラブホヌード撮影が巻頭におかれて、読者をアラーキーによって開かれるおマタならぬエロチックな世界に誘う。そうしてどこをめくっても良識ある方々なら、目を背けたくなるような酒池肉林、阿鼻叫喚、狂喜乱舞のどんちゃん騒ぎの合間合間に、東京の風景写真が箸休めのように配置されており、一時の性の快楽にふける人々を、客観視するかのような、クールな視点を与えている。
まぁ、言うならばヨーロッパ人的なセンスでリミックスされているってことだろう。なにしろ、俺達日本人にとっては、その時代は、すでに過去のこととはいえ、自分自身の経験した出来事であるのに対して、ヨーロッパの皆さんからすれば、はるか極東の異民族の狂乱の一時代に過ぎないのだから、客観的な視点が設けられていても、驚くには値しない。
だからと言って、そのヴォルテージが減衰しているわけではなく、当然ドイツ編集なので、日本版のように、にっこりほほ笑む聖子ちゃんカット(若い読者には分からないだろうから言っておくと、当時絶大な人気を誇っていた松田聖子によって流行した髪型だ。俺の高校生の頃は、女の子はみんなそんな髪型であった。あぁ、既に30光年ほど離れている世界の話しだ。)の風俗嬢の股間は、ばっちりノーカットで、丸見えだ。丸見え過ぎて、当分焼肉は食いたくないってカンジだ。
で、そういう乱痴気騒ぎ(その中には、当然アラーキー自身も黒メガネでニタニタゲラゲラ笑ったり、すましたような顔をして写り込んでいる。)の合間合間に挟み込まれた、アラーキー独特の何とも言えない、少し侘しいような風景写真によって、性=生の儚さと、儚いがゆえの迸るような激しさが強調されているようにも思える。
その風景の中には、荒木の生家にほど近い浄閑寺の無縁墓地も含まれている。しかも2カットも。
この場所がどんなものか知らなければ、何故こんな墓の写真が置かれているのか、唐突な印象を持つことだろう。この墓地は、江戸時代、身寄りのない遊女=風俗嬢の死骸を葬った場所だ。アラーキーの本には、時折登場する。これが、新宿や渋谷の風景写真とともにおさめられているのは、意味深長だ。エロスの奥の細道が、タナトスにつながっているように感じられるぜ。しかし、それってヨーロッパ人にはまったく分かんないと思うんだけどな。何のキャプションもついてないし・・・。
とはいえ、こうした編集意図によって、より一冊の写真集としてまとまったものになってるように思う。ゲージュツっぽい雰囲気すら漂ってくるぜ。
また、日本版では割愛されていたようなカットも、ふんだんに取り込まれている。これはウレシイ。
100キロは超えていそうな肥満体の3人の女王様のカットなんか、てんこ盛りに増えている。別にデブ専ではないが、こういうリミックスは、かなり嬉しい。この3人のデブ女王様(もちろんSMの女王様だ)は、アラーキーの傑作選には、必ず出てくるわけだが、そのものすごいインパクトが質量ともにUP
↑という感じだ。
さらには、英語、ドイツ語、フランス語の三か国語で、当時アラーキーとコンビを組んで写真時代を担っていた名編集者、末井昭氏による解説が記されている。日本版からの忠実な翻訳だ。これで、3か国語のお勉強にも役立つというおまけつきだ。
しかし、いくつか残念なこともある。
日本版で、末井昭氏によって付されていたと思しきユーモラスなキャプションは、一切割愛されている。あれはあれでけっこうクスリと笑わせてくれたのに。
また、日本版のラストを飾っていた印象深い包茎手術のシリーズは、そっくりカットされている。残念だ。残念きわまる。
しかし、まぁ随分と(オーダーしてから3週間)マタされた貝じゃない、甲斐があった写真集だってのは、間違いない。お値段およそ、15ドル。送料10ドル。
タッシェンホンコンと書いていながら、何故かオフィスはシンガポールであった。運送会社はスウェーデンポスト。不思議な組み合わせだったが、何とか手元に届いた。こいつがいったい世界のどこを経巡ってきたのか、とても気になるもんだ。
それはそうと、アベノミクスとやらのおかげで、マカを呑むようになったおじさんみたいに、日本の景気が良くなって、うっかり万一バブルがきちゃったりしても、すっかり去勢されたような草食系の若者と、過重労働でフラフラになったおじさんばかりのこの日本には、こんな毎日がどんちゃん騒ぎみたいな時代は、二度とは来ないだろうな。
なんてったって、すぐにセクハラだとかパワハラだとかって大騒ぎだからな。風俗だって、ひっそりとしたデリヘルばかりが大流行だ。まったく日本人も繊細になったものさ。その意味でも、この写真集は貴重な記録だと思うよ。
読者諸君、失礼する。そろそろ眠らせてもらうとするぜ。