![]() |
| ベトナム、フエ |
毎度おなじみレヴィストロースの本を一冊やっつけたので、クィン・スロボディアンという歴史学者の破壊系資本主義🔗(原題=Crack Up Capitalism)という本を読み始めた。みんな大好きみすず書房だ。
新自由主義が、1980年代からどのようにして国家の規制をかいくぐり、治外法権のような経済特区 ― 本文中では『ZONE(ゾーン)』と呼ばれている ― が生み出され、富裕層をひきつけ、税制や規制をかいくぐり、富裕層の投資のための開発が行われる。どこかで聞いたことのあるような話だ。スロボディアンの言う「ゾーン」は、国家の主権の中にありながら、通常の法律や民主的な手続きが「バイパス(回避)」され、特定の目的(軍事、経済、監視など)のために例外的なルールが適用される空間だ。
同じ名前のエナジードリンクとは一緒にしてはいけない。もっとも、刺激的だが、多量に服用するとよろしくないというのは一脈通じているかもしれないが。
まだ読み始めて間もないのだが、これがなかなか面白い。というかむしろ、恐ろしいシステムが富を生み出すために生み出されてしまったものだという危機感が募る。
社会の公共財=コモンズが一部の富裕層に大盤振る舞いされ、人々の生活の場はいつのまにか富裕層の底引き網漁場となってしまうという、ぞっとする現実がそこにはある。格安で富裕層に与えれる土地、投資を目的とした大規模な開発、タックスヘブンとの密接な結びつき。投資用の壮麗巨大な建築物はまるでゴーストタウン。極めつけはその特区からの民主主義の排除!
読み始めてふと思ったのだが、日本が(とりわけ沖縄が)抱えている米軍基地も、一種の軍事的なゾーンそのものだと気づいた。
スロボディアンが『破壊系資本主義』で提唱した「ゾーン(Zone)」という概念は、まさに日本の米軍基地の法的・空間的なあり方と強く響き合っている。
日本の米軍基地がその「ゾーン」と見なせる理由は、主に以下の3点に集約されるんだ。
①法的な「穴」:
日米地位協定により、基地内は日本の国内法(労働法、環境法、航空法など)が完全には適用されない「治外法権」的な空間になってるのは皆様ご存じの通りだ。おかげさまで、アメリカ軍人のがひき逃げしようが強姦しようが、日本の法では裁けない。
これはスロボディアンが描く、国家から切り離された「特区」の構造そのものだ。
②民主主義の遮断:
周辺住民や地方自治体が基地の運用(騒音、環境汚染、事故など)に対して異議を唱えても、国家間の合意が優先され、通常の民主的プロセスが機能しない。この「民意が届かない設計」もゾーンの特徴だ。
③グローバルな結節点:
米軍基地は日本という領土にありながら、物理的には米国の戦略ネットワークに組み込まれている。アメリカの世界戦略に必要不可欠だ。今ホットな話題に事欠かないイラクにも出向いてる。アメリカの最大のライバル、中華人民共和国の目の前に不沈空母のように配置されている。有刺鉄線の境界線で区切られ、外部とは異なる論理で動く「カプセル化された空間」である点は、まさに現代の破壊系資本主義が求める効率的な空間管理のあり方そのものだ。
米軍基地は、単なる軍事施設という以上に、国家主権が意図的に「割れ目(Crack)」を作らされている、日本におけるもっとも巨大で永続的な「ゾーン」であるという解釈ができる。
というか沖縄そのものが、アメリカの軍事特区にされているといっても過言じゃないだろう。
これは恐ろしく強固なもので、かつてこの流れに異を唱えた政治家はすべてつぶされた。
沖縄県の人々の民意は、ほかならぬ日本の官僚と政府によって無視されている。
さて、目を大阪に転じてみよう。
万博跡地の夢洲に計画されているIR(統合型リゾート)は、スロボディアンの定義する「ゾーン」の現代的な典型例と言えるだろう。
スロボディアンは『破壊系資本主義』の中で、国家が特定の区画を「特区(ゾーン)」として切り出し、通常の法規制や民主的手続きを停止させる現象を分析しています。夢洲のIR計画には、その特徴が色濃く現れているようだ。
夢洲IRが「ゾーン」である理由はざっと次のようなものだ。
①法の「例外状態」の創出
本来、日本の刑法では賭博は禁止されています。
しかし、IR整備法という「例外の法」を設けることで、特定の民間事業者が特定の場所(ゾーン)でだけ、本来違法であるカジノを運営することを可能にしています。これはまさに、国家が自ら法に「穴」を開けてゾーンを作る行為です。
大阪府はギャンブル中毒を啓発する動画を作っているけれど、その主人公がギャン太郎って、人間の屑感満載で絶賛炎上中だ。
②民主主義のバイパス(回避)
スロボディアンは、ゾーンの特徴として「住民の意志よりも投資家の利益が優先されること」を挙げている。結構なことだ。夢洲のIRを巡っても、公金投入(土壌汚染対策費など)や賃料の算定プロセス、依存症対策などについて多くの反対意見や住民訴訟が起きているが、計画は「国際競争力」や「経済効果」を大義名分として強力に進められている。
官僚の無謬神話か、それとも日本維新の会(大阪維新の会)のイケイケ体質なのか、どうにも止まらない。
③「島(アイランド)」という物理的隔離
都合のよろしいことに、夢洲は人工島であり、物理的に本土から切り離されている。
スロボディアンが論じるゾーンの多くも、物理的・法的に境界線が明確な「島」のような空間だ。香港やシンガポール、聞いたこともないような何とか諸島...。
一般の市民生活から切り離された場所に、独自のルールで動く巨大なエンターテインメント・経済空間が誕生する構図は、彼が描く「資本主義の割れ目(クラック)」そのものだ。
④グローバル資本による統治
大阪のIR事業主体である「大阪IR株式会社」は、米国のカジノ大手MGMリゾーツとオリックスが中心となっている。
やれやれ
日本の国内法よりも、グローバル企業の利益や国際的な投資契約が優先される空間になるという点でも、米軍基地(米国の軍事ロジック)とIR(グローバル資本のロジック)は、同じ「ゾーン」というコインの表裏に見える。気に入らないぜ。
スロボディアンの視点から見れば、米軍基地が「20世紀型の軍事的ゾーン」であるのに対し、IRは「21世紀型の経済的ゾーン」として、日本の主権を内側から「穿孔(穴あけ)」している存在と捉えることができそうだ…。
ふーむ、本当にこの国は独立国家なのか?
一人一人の市民からなる社会の公共財を、一部の富裕層のために使っていていいものだろうか?それとも日本が生き残る道は、こんな狭隘で卑屈な道しか残されていないのか?
俺自身は、一部の富裕層やどこかのわがままな王様のために切り売りされることを良しとする政府よりも、そしてその中で互いの権力闘争に明け暮れる政府よりも、国民の生活の向上と安寧をこそ目的として方策を尽くす政府であってほしいものだ。
そう、金を持ったろくでなしが他の人間の尊厳を踏みにじる「ゾーン」なんてまっぴらごめんなのさ。

0 件のコメント:
コメントを投稿