2026/08/06

POST#1931 盛夏、百花繚乱その2

ウブド、バリ  クリステミス・ブルケラ

俺の言葉は、単なる思い付きじゃない。

分類学の父であるカール・フォン・リンネ🔗が提案したことをなぞっているだけのこと。

18世紀、リンネは植物を分類するために、花のおしべとめしべの数や配置に着目した「性分類体系(その名もズバリSexual System)」を打ち出した。その際、彼は植物の生殖器官を人間の性や結婚に見立てたため、花弁を「祝宴のベッド」、おしべを「夫」、めしべを「妻」と形容した。酔狂な学者だな(笑)。

例えばおしべが2本ある花を「1人の妻に2人の夫がいる結婚」といった具合に表現し、植物の生殖器官を大胆かつ生々しく描写した。なかなか楽しそうだな。

それまで単に美しく愛でる対象であった花が「あけすけな生殖器の露出」として捉え直されたため、当時の潔癖なピューリタン🔗の皆様は、美しい花々を「淫らで不道徳」「婦女子に見せるべきではない」と猛反発した。

バカバカしい、自分だって持ってるくせに。

荒木経惟🔗が、どこかで言っていたことを思い出した。

『裸体のいちばんの恥部であって、一番魅力的なところが顔なんだな。』(荒木経惟『すべての女は美しい』55頁より大和書房刊)

同じようなことを彼は他でも語っていた。女性の体で最も淫靡なのは、その顔なんだという。美しい花が、満開の生殖器官であるという言葉と響き合っているな。

普段からマスクをして暮らす若い女性たちは、その淫靡さを自ら悟っているからだろうか?

2026/08/05

POST#1930 盛夏、百花繚乱その1

バリ、ウブドにて
暑い時期の仕事は、肉体を蝕む。
日中に、細切れの睡眠を取っても、仕事の夢ばかり見る有様だ。窓を締め、クーラーをかけていても、セミの声が耳に響き、眠りは浅くなる。
眠れないので、息子を連れて、同級生のやっていいる耳鼻咽喉科にいく。息子は副鼻腔炎を起こしていて、この暑い中、青っ洟を垂らしていたのだ。良くなったからよかったものの、今度は乳歯がグラグラで、集中できないと宣う。俺は仕事用のベンチで抜いてやるといい、友人の耳鼻咽喉科医の藤本君は、ピンセットでグラグラさせてみて、これはまだだなと納得させる。
生きるとは、こんな日常の連続だ。

花とは不思議なもので、動物が身体の深奥に隠している生殖器官が、あたかもその植物を表す指標、つまりは顔のように露出している。
斯くほどに植物は、動物とはまったく異なる構造を持っている。むしろ、倒立した構造を持ったものだと言えるだろう。

だから、花の美しさを愛で、その香りを胸いっぱいに吸い込み賞することは、どこか淫靡で背徳的な行為に俺には思える。

だからしばらく俺の脳内で蛭子のようにくらげなし漂う思念のなかから、書きたいことが言語化されて浮かび上がってくるまで、花の写真でもお送りしよう。

こんなことを言われたら、そう、含羞を覚えずに花を眺め、香りを楽しむことはできないだろうね。
ある意味、呪いの言葉なのさ。


2026/08/04

POST#1929 疲労困憊してふと原憲之貧を想う

タイ、メーサロン
昨日は久々に仕事をして、心底くたびれたぜ。
帰ってきたときには、汗でべとべとの服を洗濯機に放り込んで、明け方一人、上半身裸で飯を食った。東南アジアのおっさんみたいだ。
暑いというだけで、体力は消耗する。しかも、ダラダラとひと月ほど好き放題に暮らしていたおかげさんで、身体はすっかりなまっている。
それでも、何とか食器を洗い、汗まみれの体をシャワーで洗い流したうえで、仕事の報告書を送る。これさえやっておけば、眠ってる間に誰かが対応してくれるだろう。
そして眠りにつく。短い眠りだ。どっかの総理大臣みたいだ。
折り悪く、今日は精神科にレクサプロをもらいに行く日だった。
なんとかベッドからはい出し、精神病院へと車を転がす。
精神病院にはすげーたくさんの心を病んだ人たちがいる。
薬局にもすげーたくさんの心を病んだ人たちがいる。
この国はどうなってるんだ?それとも俺の住む町だけか?

俺はいつまで、この薬を飲み続けなけりゃならないんだ?

ふと、頭の中に論語の一節がよぎる。

原憲居魯、環堵之室、茨以生草。蓬戶不完、桑以為樞、而甕牖二室、褐以為塞。上漏下溼、匡坐而弦。
子貢乘大馬、中紺而表素、軒車不容巷、往見原憲。原憲華冠縰履、杖藜而應門。
子貢曰、「嘻。先生何病。」
原憲應之曰、「憲聞之、无財謂之貧、學而不能行謂之病。今憲貧也、非病也。」
子貢逡巡而有愧色。
原憲笑曰、「夫希世而行、比周而友、學以為人、教以為己、仁義之慝、輿馬之飾、憲不忍為也。」

現代語に訳すと、こんなんだ。
(孔子の死後のこと、孔子の弟子でその家宰でもあった)原憲は魯の国に住んでいた。その家はわずか一囲み(の狭小住宅)の部屋で、生い茂った草で屋根が葺かれていた。よもぎの戸は壊れかけ、桑の枝をドアのヒンジにしていた。さらに、底の抜けた甕を窓枠にし、2つの部屋の隙間には粗末な毛織物を詰めて風を防いでいた。天井からは雨が漏り、床は湿気で濡れていたが、原憲は正座して琴を弾き、歌を歌っていた。
そこへ子貢が、立派な大馬に乗り、内側には紺色、外側には白い高級な衣服をまとい、大きな馬車が路地に入りきらないほどの格式で、原憲を訪ねてきた。原憲は(樹皮で作った)帽子をかぶり、かかとの抜けた靴を履き、あかざの杖を突いて門に出て出迎えた。
子貢は(そのあまりの困窮ぶりに驚き)言った。(子貢は孔子門下では原憲の後輩だった)
「ああ、先生、一体どうしてそんなに病み苦しんでおられるのですか!」
原憲はこう答えた。
「私はこう聞いています。『財産がないことを【貧しい】と言い、道を学びながらそれを実践できないことを【病んでいる(重症である)】と言う』と。今の私はただ【貧しい】だけであって、【病んで】はいないのです」 
子貢はあとずさりし、自分の発言を深く恥じる顔つきになった。
原憲は笑ってさらに言った。
「世間の流行におもねって行動し、派閥を作って(お互いにひいきし合って)友を呼び、他人に誇示するために学問をし、自分の利益(謝礼など)のために他人に教え、仁義を隠れ蓑にして悪事を働き、馬車を豪華に飾り立てる。私には、そのようなさもしい真似はとうてい耐えられませんよ」

なかなかいかれたジジイだな。嫌いじゃない。