2026/08/14

POST#1939 盛夏、百花繚乱その10


 

Ubud,Bali、俺は悪人だから、死んだら蓮の花の上さ
中上健次の傑作『千年の愉楽』の登場人物のオリュウノオバは、かつて蓮池を埋め立てて造られた路地と呼ばれる被差別部落に住む産婆だ。

彼女は、現在と過去を自在に行き来し、マジックリアリズム的に重層的な過去を今ここにあるかのように思い返す。自ら取り上げ、淀んだ高貴な血の宿命を背負って、卑小な生をいき、非業の死を迎えた中本の一党の男たちのことを、年老いて不自由な体で想い返す。

時にその精神は寝たきりに衰えた肉体を抜け出し、時空を自在に飛翔する。

そして自らが世に生を享ける前の蓮池に咲いていた蓮の花が朝日を浴びて開く音すら幻のように耳にする。

このイマジネーションという能力こそが、人間の知覚を拓く。

やたらめったら丈夫なだけが取り柄の父を墓参りに連れて行ったあと、俺は帰りの車で父に、『おい親父よ、死んだ(俺の母親の)淑子さんや(俺の祖母の)ノブちゃんが、息子たちの迷惑にならんように早くこっちにおいで』って言ってなかったか?とブラックジョークを飛ばしまくった。父は車の後部座席の居心地が悪そうな顔をしながら、しれっと『いや、いってなかったなぁ…』と小声でつぶやいていた。冗談じゃないぜ。

おかしいな。俺にはそういう声が聞こえたように感じたんだがな。

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