2026/02/06

POST#1752 ジジイになる前に死にたいぜ

千葉県 犬吠埼
お嬢の話はまた今度だ。
今日はカミさんの誕生日だからな。
しばらく前には、リファのヘッドマッサージャーだのヤーマンの美顔器だの贈っていたが、親父のことで深刻な金欠症なので、今年はなしだ。
おいしいものでも食べに行くというのも手だが、バカ息子の塾が終わるのが遅いので、それも却下だ。ケーキでも買っておきゃいいんだ。
だいたい、50過ぎたら誕生日は地獄の旅の一里塚。まったく楽しくないぜ。
それは男も女も同じことだろう。
俺なんか毎日が憂鬱で仕方ない。The WhoのMy Generation🔗って曲の歌詞に、I hope I die before get old つまり、ジジイになる前に死にたいぜ!ってあるけど毎日そんな心境だ。
なんたって、俺は鬱病だからな。世の中の皆様からの心無い仕打ちで、生きることに飽き飽きしてるのさ。死なないのは臆病だからだ。

閑話休題

さて、親父のことだ。
俺の弟は、親父が退院した日にあった弁護士にうんざりしていた。
仕事の付き合いでも、きっといろいろあったんだろうよ。しばらくするうちに、親父の自己破産の面倒を見てくれる弁護士を、もっと若くてやる気のある弁護士に乗り換えようということになった。
どんな奴でも、若くてやる気のあるやつはいいもんだ。若いってだけで嫉妬するぜ。Shit!
で、俺は弟と一緒にその若手弁護士に会いに行ったりしたんだ。
確かに人当たりは良かった。しかし、だからと言って魔法のように借金が消えるわけがない。
そうこうするうちに、叔母のあさチャンの家に、また信用金庫から不幸の手紙がやってくる。俺は開封せずに、俺のところに送るようにあさチャンに頼んだ。届いた手紙を開封してみると、ふむふむ…このままだと連帯保証人のあなたに、服部のおやっさんの借金を請求するしかないけどどう?ってことだ。まいったな。

あさチャンは、ボケているのか本当に知らないのか、私は連帯保証人なんかなった覚えはないし、印鑑ついた覚えもないといって、おろおろするばかりだ。
例え若手弁護士の活躍によって、親父の自己破産ができたとしても、その借金はあさチャンの身に降りかかるだけだ。
俺としては、世話になってるあさチャンとその娘夫婦に迷惑をかけたくなかった。
そして何より若いころの俺を支えてくれた今は亡きあさチャンの旦那の恩義に少しでも報いたかったんだ。何とかせねばな。
弟は、あの兄妹は都合が悪くなるとすぐボケて記憶がなくなるとうんざりして、これ以上面倒みれないし、見るのも嫌だという風情だ。自分がかかわりたくないから弁護士を頼んだわけだ。
そうこうしているうちに、その若い弁護士があさチャンのところに藩士をしに行ってくれるという話も出てきた。去年の七月初旬のころだ。

ちなみに、うちの親父はその頃にはすっかり元気になりやがって、片道2キロくらいあるかかりつけの病院まで歩いて診察を受けに行ったりするくらいだった。そこで、今まで俺のことは暴力的で碌な仕事をしてないヤクザ崩れの道楽者みたいに言っていたのに、孝行息子だといって喜んで吹聴しているらしい。

お幸せなもんだ。あきれてものも言えないぜ。

ちょうど、そんなころ俺の10年満期の生命保険が満期になり、満期祝い金で50万円入ってきた。俺はこのタイミングで現金が入ってきたことに何か運命的なものを感じたね。
俺はこの50万に加え、いろいろと金を工面してかき集めて165万円の現ナマを用意した。
とはいえ、長年不測の事態に備えて、自分の給料を少なくして一人でビジネスを展開してきた俺に、そんな余裕があるわけでもない。かなり無理して金を工面したんだ。
税務署さんに突っ込まれると困るから、あんまり細かいことは言えないけどね。

で、何とかかき集めた100万円一束、65万円一束を無造作に輪ゴムでとめて、くだんの信用金庫にたたきつけてやることにしたんだ。きっとすっきりするぜ。封筒にも入れず、無造作にポケットに突っ込んでいこう。
普通はスーツとか着て、神妙な面持ちで行くのが筋なんだろうが、そんな卑屈なことはしたくない。

俺はだぶだぶのカーゴパンツに下駄をつっかけ、たしかゲゲゲの鬼太郎のTシャツを着ていたんじゃないかな。程よく舐めてます。

よいことをする時には、どこか後ろめたくコソコソやるべきという流儀が俺にはある。
それに、肩苦しいのは好きじゃない。野暮ったいスーツを着て、毎日地味なネクタイを締めるが嫌だから現場で働いてきたんだぜ、三十年も!

何気なく番号札をとり、順番が来て窓口につくと、「服部トヨちゃんの息子ですが、借金を耳そろえてお返しに上がりました」と告げた。
すると、パーテーションで仕切られた商談スペースに通され、おっとり刀で担当者がやってきた。担当者は贈られた書類に歌ってあった人が人事異動になったようで、I原さんという俺と同じくらいの年齢の人だった。
この人がまた話が分かる人だったので、すごく助かった。
というのも、本来ならば手形の更新が滞ったことで、法定利息ぎりぎりの金利がついてくることも予想していたんだ。そうすると、不足分をまた工面しなきゃならない。
しかしI 原さんは本店の偉いさんに掛け合って、利息をつけるのを7月22日まで半年間ストップしてくれたらしい。ナイス!
俺がこの信用金庫に金を返しに行ったのが7月14日の月曜日だったから、危ういところだった。

あさチャンだって、もう年金暮らしで体の具合もよくないのに、借金を肩代わりさせられたらたまったもんじゃない。I原さんも、あさチャンの資産状況とか持っている不動産の権利とかとっくに調査済みだった。このままいくと、あさチャンかあさチャンの娘夫婦に累が及ぶと案じてくれていたんだそうだ。さすが蛇の道は蛇だな。

俺は金を払い終わるとすっきりした。俺の財布もすっきりした。素寒貧だ。夏の盛りなのに寒気がしたぜ。

このやり取りを俺は弟たちにはしばらく内緒にしていた。
俺がやってやったと、誇らしげに言うのが嫌だったし、弁護士に相談してくれたりしてくれた弟の気分を害したくなかったんだ。のちに話すことにはなったけれど、あー、やっといたぜくらいの軽いノリで話したんだ。トイレの中に流してないうんこがあったのを流しておいたぜって言うくらいのノリだ。
親父は今も元気に暮らしている。たまに小遣いを一万円くれとか言ってくる。俺はうんざりしながら金をわたしに行く。自分で金の管理はさせられない。禁治産者だぜ。
そして、三食昼寝に浴場付きの快適な暮らしで、ますます健康的で元気だ。
間違いなく俺より長生きするだろう。そうなったとき、いったい誰が面倒を見るんだ?
やれやれ、町一番の孝行息子として生きるのも楽じゃないぜ。
ほんと、ジジイになる前に死にたいぜ。もうくそジジイ一歩手前だけどな。

さてと今日はカミさんの誕生日にささやかなケーキでも買いに行かにゃならないから、この辺で。

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