かつて、旅先でのある朝、妻子が眠っている間に早朝の熱帯の町を散策した。
共産党の旗の鎌を思わせる、ヤシの実ナイフ。
切り取られたヤシの実の房。
生々しく原形を留めたニワトリの肉、つまり死骸。
そして、排水溝に朽ちかけた猫の死骸。
それは、けっして世の人々の目を惹くものでもなく、視覚的に素晴らしい感銘や驚きを与えるようなものでもない。
けれど、生きていくうえで、自分が生きているという実感の地平から、これらの対象に視線を注ぎ、目をそらすことができない。
世界は美しくない。故に、美しい。
世界は残酷だからこそ故に、どこまでも優しい。
目の前の世界から、片時も目をそらしてはいけない。
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